僕達の願い

古びた廃墟の一室に、若者が集まっていた。
年齢は全員成人には程遠く、中学と高校に通っている年齢だった。
彼らの表情は一様に険しく、その中の一人が苛立ちを現すかのように、廃墟の薄汚れた壁を蹴った。鈍い音があたりに響き渡る。

「くそっ！きっとルルーシュだ！あいつナオトとカレンと玉城を何処かに連れ去ったんだ！そうに違いない！！」

壁を蹴った独特の天然パーマの男は、そう喚き散らした後脱力するように床に座った。

「でも扇、ルルーシュのせいとは言いきれないだろう？玉城の母親と話をしたけど、この頃の玉城は普段から家には居つかないで1ヵ月や２ヵ月平気で家を空け、学校もサボってたって言うし、この時代の友人と遊んでいる可能性もあるんじゃないか？」

とりあえず落ち着けと、吉田は扇を宥めた。
なにせ家族を含め、玉城の回りにいた知り合い達は、あの戦争で全員命を落としているのだ。彼らを懐かしみ、あの頃のように遊びまわっている可能性は否定出来ない。

「それにナオトからも連絡はあったんでしょう？カレンのお父さんがカレンを後継者にするため連れに来たって。だからその父親から逃げるために母親とカレンを連れて暫くここを離れて田舎で暮らすって・・・未来の記憶は正直信じられないから、ごめんって言っていたんでしょ？」

井上も吉田に同意を示すように別の可能性を提示する。
ナオトの気持ちはわかる。未来を知らない人間に、これから戦争が起きて日本は負けます。自分たちはレジスタンスとして戦います。やがてその組織は世界の1/3を占める大国、ブリタニアと対等に戦えるまでに成長し、ブリタニアを倒しました。そんな話信じろと言う方がどうかしている。
さらにギアスという魔法のような力が出てくるのだから余計に胡散臭い。

「もしかしたら、ルルーシュにそう言わされたのかもしれないだろう！」

あいつの力は人を服従させるんだ！
きっとそうだと断言する扇を見て、井上と吉田は顔を見合わせ小さく息を吐いた。
吉田と井上は、2028年までの全ての話を聞いたとはいえ、何でもかんでもルルーシュがと口にする扇達に内心呆れていた。
彼らの話す未来の話を疑っているわけではない。自分たちは後にブラックリベリオンと呼ばれるあの戦いで命を落とすまでの記憶を持っているのだから、その先の話もある程度信じてはいる。
だが、ルルーシュという皇族がゼロの正体で、やがて黒の騎士団を裏切りブリタニアの皇帝となり、世界征服をしたが、別のゼロに討たれた。
その話だけは納得出来なかった。
ゼロの正体はルルーシュなのにゼロに討たれた。
その別のゼロが枢木スザクだと言うから余計に訳が解らない。
お飾りの皇女の騎士で、ナイトオブセブンとなったという男、主を殺したゼロを恨んでいるはずの男がゼロとなった。
どうしてなのか聞いても、扇たちは知らないらしく、その答えは解らないままだ。
戦争が終わった時点で死んだ仲間はブラックリベリオンで死んだ自分たちと、ゼロと出会う前に死んだナオトと、未だ連絡が取れない永田だけで、他は全員最後まで生き残った。それだけでもゼロの、ルルーシュの手腕と、仲間を大切にする心を感じられたのだが、扇は自分たちを駒のように扱ったと非難しかしなかった。実際に裏切られた場面に居なかったからかもしれないが、井上と吉田は、扇達と自分たちに温度差がある事を感じながらも、未来を知る仲間として共に行動していた。もしかしたら玉城はこの温度差を2028年にも感じていて、だから離れたのかもしれないと、思いながら。

「で、これからどうする？ルルーシュの居場所は教えてくれなかったんだろう？」

南の問に、ブリタニアの大使館に連絡を取った扇は、そうなんだ。と首を振った。

「ルルーシュは危険だと、いくら説明しても解ってくれないんだ」

それはそうだろうと、井上と吉田は思うのだが、扇たちはルルーシュがギアスで操っているからだと断言する。全てがルルーシュ。疑心暗鬼にかかった彼らは、全ての罪をまだ10歳の少年に被せている。
確かに最初は自分たちも胡散臭い仮面の男に従えない、信じられないと思いはしたが、ここまででは無かった。
やがてこの場の空気に耐えきれなくなった井上は立ち上がった。

「なんか喉渇いたわね。ジュース買ってくるわ」
「ああ、そうだな。頼む」
「じゃあ俺も行くよ。食べる物も何か買ってこよう。どうせまだいるんだろ皆」

そろそろ昼だしな。

「そうだな、じゃあ井上、吉田、頼む」
「じゃ、行ってくるわね」

そう言うと、井上と吉田は廃墟から外に出た。町の少し外れにある廃墟とはいえ、それなりに人通りはあるが、運よく通りには誰も居なかったようだ。誰にも見られなかったことに安堵し、二人は並んで歩きだした。

「近くのコンビニで済ますか？」
「どうせだからもう少し先のスーパーに行きましょう。安いし」

どうせ皆お金、出してくれないわよ。

「・・・それもそうか」

井上と吉田は高校に入ってからアルバイトをしていたし、戻ってきてからも続けている。だからある程度自由になるお金があるが、扇達はアルバイトをしていても趣味に全額使っていたうえに、戻ってきてからは止めてしまったらしく手持ちはない。
だからなのか、彼らは一度もお金を支払う素振りは見せなかった。
ありがとうの一言もない。

「払ってもらって当たり前って感じよね。まあ、首相になったらしいし、感覚が私たちとは違うのかしら？」
「さあな。でも、扇も南も杉山も、変わったよなぁ。なんか上から目線っていうか、見下しているっていうか」
「玉城は変わって無かったわよね」

ちょっと落ち着いた感じはしたけど。

「だよなぁ。玉城と連絡とれないかなぁ」

再会した時に玉城は携帯は持っていないと言っていた。だから、家に帰ってこない以上こちらからは連絡が取れないのだ。

「そうね、連絡が取れればルルーシュのせいじゃないって解るのにね」

今どこで何をしているのか聞くことができれば、ギアスで操られ誘拐されたなんて話を否定できる。もし、ルルーシュがそんな手を使えるなら、自分たちにも手が回っているはずで、ここでこんな集会など開けるはずがないのだ。

「いや、そうじゃなくて。俺たちが死んだ後の話ってさ、扇と南と杉山からは聞いたけど、玉城からは聞いてないだろ？もしかしたら別の見方もあるんじゃないかなと」

未来の話はいつも目を血走らせた３人が行い、玉城はそれをじっと聞いていただけだった。今思えば目立ちたがり屋の玉城らしくない事であったが、あの3人に対し否定の言葉をあげたら最後、ルルーシュに操られている事にされるため、傍観していたのかもしれない。

「別の見方？」
「特にゼロがゼロに殺される辺りとかさ」

あれ、全然意味が解らないんだよな。

「それはすごく聞きたいわね・・・って、見てあれ」

スーパーの傍まで来ていた二人は、慌てて物陰に隠れた。
自動ドアが開き、スーパーの中から姿を現したのは新緑の長い髪の女性。
あれほど目を引く美少女が、他人の空になんてことがあるはずない。
間違いなく、ゼロの愛人とも言われていたC.C.。
買い物袋を片手に持ち、もう片手でソフトクリームを持っている。
彼女はこちらに気づくことなく、ソフトクリームを口にしながら歩き出した。
こちらは二人、あちらは一人。
記憶があるかは解らないが、是非話を聞きたい相手だ。
いや、聞かなければならない。
彼女の姿が自分たちが知る７年後の姿と全く変わっていないことになど気づく事無く、井上と吉田は立ち去るC.C.の後をつけた。